Ⅳ 業務成績評定への再質問書が却下

業務成績評定への再質問書が却下

1.入札制度改革のもう一つの動き-総合評価方式について

 県は入札制度改革によって、原則としてすべての入札を一般競争入札としましたが、一般競争入札は価格のみで競争するため、そのなかで品質をどう確保するかが課題でした。
 総合評価方式は、価格以外の多要素も考慮し、価格と品質を総合的に判断して落札者を決める方式で、現在国では一般競争入札の中で全面的に総合評価方式を試行 し、長野県でも一部で試行しています。平成17年に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律」はこうした主旨から制定されたものです。
 成績評定は工事や業務の成果を品質面で評価し、その評価結果を入札にも反映させようとするもので、総合評価の中で大きなウエイトを占めています。
 (1) 委託業務の成績評定
   長野県では、「委託業務等成績評定試行要領」(別紙のとおり)を平成14年から施行し、本要領により委託業務の成績評定を試行的に行っています。あわせて、受注者が評定結果に異議がある場合は意見書や再意見書が提出できるようになっています。
 (2) 評定結果に対する苦情処理
   平成13年に施行された「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」では入札の適正化による国民の信頼の確保に合わせて、苦情処理のための第三者 機関の設置が義務付けられ、県では再意見書が提出された場合、この第三者機関である「公共工事入札等検討委員会」で審査することになっています。

 

2.当社が県に提出した「業務成績評定結果に対する再質問書」が却下

 そこで、今回は現在の入札制度の中で私達が出くわした事例を紹介します。そこでは大きな問題点を提起し、改善を提言していますが、その顛末は次のとおりです。
 (1) 当社は、下記の受注業務に対して受けた成績評定は著しく適正さを欠いていると判断し、発注機関である飯山建設事務所に対し成績評定点の見直しを求めて質問書を提出しました。
  ① 委託業務名: 平成19年度県単道路改築事業に伴う環境調査業務委託
           一般地方道秋山郷森宮野原停車場線 栄村五宝木〜極野その6
  ②  履行期間: 平成19年10月30日〜平成19年12月20日
 (2) 飯山建設事務所からの回答は成績評定の判断に誤りはないとするもので、当社の意見を聞き入れてもらえませんでした。
 (3) このため、今度は県知事に対し次のとおり再質問をしました。本文は15ページにわたり主張や要望を取りまとめた内容になっています。
  ① 業務遂行条件及び当社の主張
    観測が降雪期に重なり、雪崩の多発地帯での観測となったこと、除雪を行いながらの観測であったことなど、生命の危険と隣り合わせの中で業務を完了させたことを主張しました。
  ② 回答書に対する再質問及び当社の見解
    「③」の制度上の問題で減点注1)されているものが5項目もありました。そのほか重複して減点評価されたり、認識の誤りや発注者の手違いと思われるものもあると具体的に指摘しました。
  ③ 現行の評価制度に対する疑問点
    調査の性格上該当する評価項目のないものもあり、そのために減点注1)されてしまうという制度上の問題点を指摘しました。
  ④ 当社の意見・要望
   1) 環境調査など専門的な業務については、専門的な見地から評価を行う仕組みの導入を要望しました。
   2) 発注者と受注者が対等の立場で、現行の一方向の評価でなく、相互評価注2)が行える仕組みの導入を要望しました。

 

  注1) 県の行う業務成績評定制度は県のホームページ上で公表されており、多くは加点評価となっています。この場合も正確には加点評価で行われていますが、加点されて初めて100点満点となるように計算されていることから、満点から減じるという意味で「減点」と表現しました。
  注2) 相互評価とは受注者も発注者を評価することです。現在は発注者が一方的に受注者を評価しています。私達企業は評価されることにより、企業も技術者個人も点数を上げようと努力します。その点数(評価)は企業内で人事評価等に繋がります。県の総合評価落札方式において、落札決定に大きく影響します。技術者個人にとっては、高得点を取れるように切磋琢磨して積極的に業務に取り組みます。評価点80点以上を獲得した技術者を対象とした優良技術者表彰制度もありますので励みになります。発注者(監督員等)も受注者に評価されることで、いい加減な評価も無くなり、本人のスキルアップに繋がります。県当局としては、その評価の蓄積が職員の人事評価などにも活用できます。何よりも双方のレベルアップにより、納税者である市民・県民が最大の利益を享受できます。受発注者お互いが、より市民・県民のためになるように公共事業を執行していくという共通認識の上で、適度な緊張感を持ちながら、双方の技術力を高めていくために、相互に評価し合うことは必要不可欠です。

 

 (4) 県知事からの回答は却下とするもので、その理由は委託業務等成績評定試行要領に定める「回答日の翌日から起算して10日以内」に再質問書を提出すべきところ、12日経過していたからとするものでした。
 (5) 当社は却下との回答に不服があり、その回答も担当課で決裁したものであったため、今度は直接知事に見てもらおうと次のような問題点をあげて、公共工事入札等検討委員会で審議してもらえるよう知事に要望書を提出しました。
  ① 当社は回答書を受け取った日から10日目に県知事あて再質問書を提出しました。当社が飯山建設事務所から受け取った回答書は回答日から4日も経過していたことから、回答日を受け取った日と解釈して提出したものです。こうした受取日の遅れは他にもあり、中には1週間も遅れて受領したものもあります。再質問に必要な日数がこのように受領日によって差が出るようでは、到底公正なものとは言えません。回答日が空欄のことまでありました。
  ② 苦情処理対応要領に基づき公共工事入札等検討委員会に再質問ができるという制度が、このような担当課の杓子定規な判断のために委員会に届かなくなりました。
 (6) 要望書に対する回答書は今度も知事からでなく土木部長からのもので、成績評定についての新たな提案については、今後評価の判断基準の見直しを検討するとはしたものの、12日を経過しているから却下したとの決定は変わりませんでした。

 (7) 公共事業における業務は、発注者と受注者が対等の立場で向かい合い、相互理解を通じてよい成果が得られ、成果が事業に生かされます。業務の評価についても、適正な評価が行われて初めて成果の質の向上につながっていくものです。今回県の取った措置は、余りにも一方的な措置で、こうした方向に背を向けるものです。
 (8) 公共事業を行うものは、発注者も受注者も、県民益とは何かを常に意識して仕事をしなければなりません。却下により、第三者機関による見直し、適正な評価や制度の改善の芽が摘まれることがあってはならないと考えるものです。

 

3.今回の事例で見えてきた県の姿勢

 更に問題を提起していく中で、開かれた県政とは言い難い、行政の後ろ向き姿勢に戻って来ている現実が見えてきました。
 (1) 成績評定のあり方については評定者の評定能力、客観性の確保、評定項目の採点方法などさまざまな問題や矛盾をかかえ、そのため成績評定制度は現在も試行中です。評定を受けたものから見た問題点の指摘や、改善意見に対し、形式的に処理して一緒に考え改善していこうとする姿勢がみられません。
 (2) 発注者と受注者との対等な関係が崩れようとしています。今回回答日の翌日より10日を過ぎていたとして却下されましたが、受注者はこれに対し不服を申し立てるすべがありません。一方発注者は回答日とされた日より遅れて発送しても問われないのです。
 (3) 知事は職員の言うままになり、県民から選ばれたものとして行政を指揮していこうとする姿勢が見られません。